「左官(さかん)」というお仕事を知っていますか?建物の壁や床、土塀などを、鏝(こて)を使って塗り上げる仕事です。若手左官職人の久住 有生(くすみなおき)さんは、伝統的な技を継承しながら、オリジナルのアイディアで現代建築に新しい風を吹き込んでいます。健康志向の高まりから、注目を集める「塗り壁」。知っているようで、実はよく知らない壁のことをご紹介します。
「手」より「道具」で壁を感じる
土や漆喰(しっくい)を鏝(こて)で塗り、壁面を仕上げる左官職人の久住 有生さん。壁を触るときは、「手」より「道具」を使っているときの方が壁の状態が分かるそうです。
100から200点の道具を使い分ける
伝統的な茶室は左官仕事の中でも、優れた腕を持つ熟練した職人しかできない難しい技がたくさんあります。その技術を支えるのが道具です。久住さんが茶室の左官仕事をするときは、鏝(こて)やつまみ鏝といった道具を100点から200点を用意し、塗る場所や面積、カーブに合わせて使い分けるそうです。
世界でも高く評価される、日本の技術
世界中を飛び回って世界的な建造物の修復などに携わってきた久住さん。「日本の左官職人の技術は、世界でナンバーワンだと思う」と話されます。日本の職人の目と手だけに頼って、1ミリも狂わずにまっすぐ塗る技術は世界一といいます。スペインで開催された技術競技会に出場したときは「3分の1の大きさの道具で3倍の速さで塗る」と評判になったそうです。
その土地の風土、暮らす人にあった壁を求めて
久住さんは、そこで暮らす人の思いに深く耳を傾けて、壁をデザインすることを大切にしています。自らの手で土を選び、藁を調合。その土地、その人にあったコンセプト、カラーを求めて意匠や色、塗り方を提案していきます。
犬がひっかいても気にならない、修復も簡単!
犬も一緒に泊まれるペンションの壁はあえて荒仕上げに。土と藁だけで作っているので、犬がひっかいてもキレイに見えます。壁から土が落ちても、水で練り直して塗れば、簡単に修復できますよ。
塗り壁の空間は、空気の質や音が違う
「塗り壁」は湿度が高いときは吸湿し、乾燥しているときは貯めた水分を出します。調湿性に優れているので、カビ対策になります。さらに、においも吸着してくれますよ。テレビの取材で音響担当の方が「土壁のところはとても音がいい」と話していたそうです。
温かみのある空間づくり
「コンクリートとは違い、塗り壁には温かみがある」と久住さん。土を材料として人が手で塗ることで、落ち着く空間になります。さらに、照明を上を明るく下は暗く照らすと、壁が立体的に見えるそうですよ。
コツ・ポイント
知れば知るほど、奥深い魅力に気づかせてくれる「塗り壁」の世界ですが、美しいだけでなく、住まいここちにも大きな影響があるのですね。